経験から学びに変える[経験値教育]

教員インタビュー

#02

人間健康学部 総合健康学科荒木 香織教授

運動心理学は
役立つ実践ワザがいっぱい

「ラグビー男子日本代表チームのメンタルコーチ」「五郎丸選手とプレ・パフォーマンス・ルーティンを作り上げた人物」として話題になった荒木香織教授。2016年4月から園田学園女子大学に赴任した同教授は、運動心理学の授業を受け持ち、一方でソフトボール部のメンタルトレーニングも引き受けています。授業は分かりやすいと評判で、そこには経験値教育が取り込まれているといいます。どのような授業なのでしょうか、お伺いしました。
荒木先生のお部屋は英語の文献であふれていますね。お目にかかる前は、失礼ながらグラウンドに立って選手とお話ししているイメージしか持っていませんでした。

よく言われます。メンタルコーチの印象が強いのでしょうね。でもスポーツ心理学を米国で勉強して修士課程と博士課程を修了してきましたから、ちゃんと研究はしていますし、授業も持っています。例えば「運動心理学」の授業は60人ほどの学生が受講しています。

どのような授業ですか。

スポーツにおける人々の心理について科学的に解明していきます。学問なので理論を教えることにはなるのですが、それだけだと退屈な授業になってしまいます。ですから学生が普段の生活やクラブ活動、就職活動といったところで、すぐにでも使えるよう工夫はしているんですよ。

授業を再現してもらっていいですか。

では「ストレス」の授業を例にしましょうか。まずストレスの定義を説明します。学問的にはストレスを引き起こす刺激や、それをどう受け取ったか、どう反応したか、そしてどう対処すべきかといった事柄を分析していくのですが、その説明だけして授業の前半は終わり。後半は、身近に感じてもらうために、学生に自分のストレスを書いてもらいます。

学生Aさんが書いたカードがここにあります。おもしろいですよ。ストレスのもとは「抜けた自分の髪の毛が家のフローリングに落ちていること」。反応は「気分が落ち込んでため息が出てくる」。結局どうすればいいかというと「いやいや掃除する」。

学生Bさんのカードはこんな感じです。ストレスのもとは「毎日の満員電車が暑いし臭い」、反応は「いらいらする」。採るべき行動は「目的の駅に着くのを待つ」。

実はストレスへの対処方法には、問題に働きかけていくケースと、自分の心に働きかけるケースがあるのです。Aさんの「抜け毛」は問題に働きかけるケース、Bさんの「満員電車」は自分の心に働きかけるケース。日常の経験を出し合うことで、こうした対処方法の違いを身近なこととして理解してもらえるのです。

とても面白くて分かりやすい授業ですね。学問というより、よりよく生きるための実践ノウハウに見えます。

総合健康学科 荒木 香織 教授

ええ、それが狙いです。理論をどれだけかみ砕いて伝えることができるかです。ある日、別のテーマで授業をした後に、学生から「来週、試合があるので、今日、授業で習ったことを実践してみます」と言われました。私としては嬉しいですね。

私の授業を受ける学生は将来、体育の先生やインストラクターなど、指導する立場、情報を提供する立場になる人たちです。ですから理論をかみ砕いて、実践に使えるものとして身につけてほしいのです。もちろん学生・選手のときに発揮されることもあるでしょう。それだけではなくて、社会に出て誰かと一緒に仕事をするとき、あるいは指導をするときにも使えるものだと思います。

理論を理解するのに日頃の体験が助けとなり、またその理論をかみ砕いて実践ノウハウにして身につける。まさに経験値教育の精神に沿った授業ですね。ところで荒木先生は園田学園女子大学でもメンタルトレーニングのコンサルテーションをされているのですか。

ソフトボール部にプログラムを提供しています。

強いことで有名なクラブですね。どんなコンサルティングをしてきたのでしょう。

いろいろありますよ。例えばけがをしてソフトボールをやめようか悩んでいる選手がいました。ここのチームは2017年の全日本大学女子選手権大会(インカレ)で準優勝、その前は優勝しています。勝つことができるチームだという意識もあって、勝つためには試合に出ないと意味がないと思っている選手が多い。その選手もそうした感覚を持っていました。それでレギュラーになれないならやめようかと。

ですが、レギュラーとして出られる人も出られない人もそれぞれの立場で力を発揮する経験はできます。園田学園女子大学チームとして優勝できればいい。そんな話をしたところその選手はチームを強くするために前向きに取り組むようになりました。この話は以前に対談記事にしていただいたので、そちらに詳しい内容が出ていると思います(健康スポーツコース スペシャルコンテンツ「Student × Professor」)。

以前、先生がメンタルコーチを務めていたラグビー男子日本代表チームにも似たような悩みを抱えた選手がいましたね。確かキャプテンを解任されてレギュラーに残るのも難しい。その喪失感に悩まされていたけれど、荒木先生の助言を受けてチームをサポートする“陰のキャプテン”に徹した選手で、確か‥‥

廣瀬俊朗選手ですね。

そうです。廣瀬選手です。廣瀬選手はその後、対戦チームを研究したり、練習で相手役になったりと、チームが強くなる環境を作っていったのですよね。それにしても廣瀬選手が社会人になって経験したのと同じような課題に、園田のその選手は大学生のうちに経験してそして克服できた。これはすごいことですよ。ほかの大学のクラブでそうした助言をもらえることは少ないのではないでしょうか。悩みに押しつぶされたまま卒業する学生と、コンサルティングを受けて悩みを克服して卒業する学生、その経験値は大いに違うと思います。選手にとって恵まれた環境ですね。今日はすてきなお話をありがとうございました。
人間健康学部 総合健康学科荒木 香織教授
「こころとからだの健康について大学生の間に考える機会を持ちましょう。日ごろのストレスへの対処法を今のうちに探しておくことは、将来の健康的な暮らしにつながります。本番でチカラを発揮するメンタルスキルについても知っておくと就職活動や社会人としての業務においてきっと役立ちます。こころの鍛え方を学びましょう」