経験から学びに変える[経験値教育]

教員インタビュー

#04

短期大学部 生活文化学科浜口 尚教授

“知らない世界”の味を
楽しみませんか

「いろいろなものが食べられる」と評判の浜口教授の授業。どのようなものが出てくるのでしょう。また食べた経験がどのように教育につながるのでしょうか。お伺いしました。
浜口先生の授業ではいろいろなものが食べられるという噂(うわさ)を聞きました。

そうですね。生活文化学科には製菓クリエイトコースがあります。お菓子づくりを目指す学生さんたちが集まってくるので、みなさん食には興味がある。ただまだ若いので、有名なお菓子や知っておくべき食材で食べたことがないものもある。それはぜひ食べて将来のための経験にしてほしいのです。

学生さんには、どんなものを食べてもらいましたか。

例えば「チョコレートケーキの王様」、ザッハトルテ。昔はウィーンにあるホテル・ザッハーと、同じくウィーンの洋菓子店・デメルでしか買えませんでした。私はウィーンで食べたことがあるのですが、これは学生さんに味わってもらいたい。

そう思っていたら、東京にデメルの支店があって取り寄せられることを知りました。さっそく取り寄せたところ、桐箱(きりばこ)に入った、たいそう豪華な装いで届きましたよ。ケーキを切るときは「ナイフを温めて切るときれいに切れます」とうんちくを言いながら人数分に取り分けて食べてもらいました。

学生さんがうらやましいです。ウィーンもいいですが、お菓子といったらフランスですよね。

はい、フランスは学生さんたちを引率してパリに行ったことがあります。食文化を学ぶ海外研修です。そのときはいろいろな物を食べ、いろいろな場所を訪れましたが、一番印象に残っているのはパティシエの青木定治さんのお店ですね。今ではパティスリー・サダハルアオキ・パリのシェフパティシエとして世界的に有名になり、簡単にお会いできませんが、当時はパリに店を構えたばかりのころで、わりと気軽に会っていただけました。お会いしたときは洋菓子の中に和の要素を取り込もうと悪戦苦闘しているとおっしゃっていました。

それは貴重な経験ですね。青木さんにも苦闘している時期があって、そして今の成功があるということも知れたわけですね。同じパティシエを目指す学生さんにとっては大きな励みになったのではないでしょうか。

「青木さんに会った」ということもあって、その後の青木さんの活躍には学生さんたちも注目していて喜んでいるようです。よい経験をさせてあげられたと感じています。

ちょっとお菓子の話からそれていいですか。マグロの話なんですが、マグロ類は今、世界的に捕り過ぎが問題になっていてクロマグロなどは数が減少している海域もあります。このままだと今と同じように捕れなくなる。今後も同じ食のレベルを維持していくためには資源管理が必要になるという話を授業でしました。

マグロの解体を見て刺身を食べる授業

マグロの解体を見て刺身を食べる授業

その流れで授業ではマグロを用意し、専門職人の方に学生さんの目の前で解体してもらって刺身にしてもらいました。その日の早朝に水揚げされた32kgのメバチマグロです。マグロを海の天然資源として意識してもらうためには、やはり魚そのものを見てもらった方がイメージできますからね。回転寿司のマグロしか知らない学生にとってはかなりの衝撃だったようです。
迫力ある授業ですね。ところでいきなりマグロの話になりましたが、先生の専門はお菓子ではないのですか。

はい、私の専門は文化人類学です。文化人類学というのはまあ異文化を理解する学問と思ってもらっていいのですが、自分たちの文化と異文化を考えるときに食料はいい材料になる。そういう意味もあって、文化人類学の授業でもなるべく食べてもらう機会を作っています。

文化人類学の授業ではどのようなお話をされるのですか。

私は長年、捕鯨文化を研究してきたので、鯨の話をすることが多いです。

世界には鯨を捕らえて食料や日用品とし利用してきた民族がいます。その民族には鯨を中心とした文化があるわけですね。一方で、世界には鯨を偏愛する人たちがいて、鯨の捕獲そのものを止めさせたいと思っている。そうした価値観の違いが捕鯨問題になっているのです。

授業では世界各地の捕鯨文化を語るのですが、学生さんたちには話を聞くだけでなく味わって実感してほしいので、鯨肉を調達し、調理学の先生にご協力いただき調理実習を行って、出来た鯨料理を試食してもらいました。

鯨料理を食べたある学生さんは、「刺身で食べるとマグロの味がし、ステーキにして食べると牛肉の味がする」と書いてくれました。こうした感想は経験しないと出てきません。このときの味覚はしっかりとその学生さんの記憶に刻まれたと思います。

将来、その学生さんが鯨の問題を見聞きするときには、きっとそのときの感想がベースになって、地に足のついた評価ができるでしょうね。先生の授業について学生さんたちから反響はありましたか。
生活文化学科 浜口 尚 教授

生活文化学科 浜口 尚 教授

就職試験で役立ったという話は聞いたことがあります。

面接で「一番興味のあった授業について語って下さい」という質問が出たそうです。そのときに最初に思いついたのが私の捕鯨文化に関する授業だったので、その授業の話をしたら面接官も話に乗ってきて盛り上がり、合格したと語ってくれました。私の授業は結構インパクトがあるようです。

一方で「食べる」ことがすぐに知識やノウハウになることは少ないかもしれません。ですが、知らない世界に関係する食材を食べることは「知らない世界への扉」を開けることにはなると思うのです。少なくとも私の授業では、知らなかった世界を知ることと、関連する食材を口にすることを、できるだけセットにしています。

食物を味わって、知らなかった世界の扉を開ける。そんな授業を経験することで、学生さんたちにはいつか、自分で世界を歩き、楽しみ、考える人になってもらいたいと願っています。

学生さんたちの将来の成長を願う先生の愛情がひしひしと伝わりました。今日はすてきなお話をありがとうございました。
注)この記事では浜口教授が過去の授業で提供した食材を取り上げましたが、これらの食材が引き続き今後の授業で提供されるとは限りません。ご了承ください。
短期大学部 生活文化学科浜口 尚教授
「私の授業は食べることによる異文化理解がテーマです。ウィーン銘菓ザッハトルテを味わったり、南極海で捕れたクロミンククジラも食べます。またパリでの製菓食文化研修や千葉県でのツチクジラ捕鯨の見学もあります」